第十二章─歪みに至るための六つの傷風景─

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「ボクは……え……パパ……?」 震える声で絞り出したヒズミの声は涙で溺れていた。 状況がようやく飲み込めたらしい。 「ママは……パパはボクを捨てないって……」 「ママ? さて、どの女のことかな?」 男は顎に蓄えた髭を擦りながら、ヒズミを尚も見下し、嘲笑する。 「酒を飲みに人界には確かによく行ったものだが、戯れに犯した女のことなどいちいち覚えてはいない」 「────!」 血の気が引いていく。 引いていく血はオレのもの。 ほぼ反射的に口を押さえた。 幼いヒズミにはそれの意味することは分からなかっただろうが、それでも嫌な感触を感じ取ったのか、情けない表情で男を見上げる。 その表情にオレはゾッとした。 しかしオレとは違い、男はその反応を舐め回すように楽しんだ挙げ句、残虐に唇を歪めた。 「恨んでくれるな。これが貴様の運命だったのだ」 地下牢に男の野太い声が反射する。 軍刀に力を込め、ヒズミの首へと振るわれた。 ──何かが壊れた音がした。 「!」 それまで何の力もないように思われた腕が伸び、男の軍刀を鷲掴みにし、瞬間、それは黒い闇に飲み込まれる。 ゾワリと這い伸び、軍刀を握っていた男の両手をも。 「な──え──あ……」 何が起きたのか理解できないと、手首から先が失われた手を顔の前にまで上げ、後ずさる。 「ぎゃああああああああ!」 ようやく理解でき、同時に情けない声で絶叫した。
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