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「手にしていることに気づいていない……?
それってどういう――」
「答えはあなたの手の中に。あなたが本当に大切な物を見失わなければ、自ずと見えてきます。
ある意味では、あなたはとっくに勝利しているのですから」
よく、分からなかった。
しかし何だか頭を内側から殴られたような、奇妙な感触だった。
「さぁ、もう戻らなければ。夢の時間は終わりですよ」
言われてハッとした。
ここにどれだけの間いたのかは知らないが、現実ではオレは絶体絶命のピンチなのであった。
「えっと……」
しどろもどろになるオレに、しかしエーシェは見透かしたように微笑んだ。
「大丈夫ですよ。戻った瞬間に死、なんてことにはなりませんから」
「どうして?」
「すぐに分かることです。信じてください」
そう言われれば、さすがに信じるにやぶさかではない。
とは言え根拠がないことも事実。
つまり、マジで怖い。
「最後に一つだけ」
少しずつ、現実に意識が引っ張られていく。
すぐに言葉もうまく紡げなくなる。
「これは私が招いた事態です。それにあなたを巻き込んでしまった。それを分かって、認めた上で、恥を忍んで、どうかお願いします」
里桜さんの体が光に包まれ、そして弾けとんだ。
そこには、今にも泣き出してしまいそうな顔の、エーシェ本人がいた。
「彼を――止めて上げてください」
その懇願は、酷く遠くの方から聞こえた。
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