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  「柏木くん。聞いてる」  ぼんやりしたぼくに、ひどくスローな声音が浴びせられた。人間の声をスローモーションで再生したときのように、低く、くぐもった声。 「ああ。なんの話だい」  しれっと答えたぼくに、目の前の彼は苦笑いを浮かべる。糸のように細い目は、もうその存在を確認できない。まあ、ひとのことはいえないけれど。ぼくの目も奥二重で小さい方だ。 「だから、かんぱいしようっていったの」  頬をふくらませて叫んだのは風花だった。いまどきめずらしい、黒髪の女の子。ショートボブなんかにしたせいで、丸い顔がさらに丸くみえる。アイプチで仕上げられた二重の目は、ぎこちないまばたきをひたすらくり返す。
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