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  「罰だよ。瞬たんがぼうっとしてるから悪いんだよ」  むちゃぶりだった。いたずらに笑う風花につられて、なぎさもぶーちゃんもぱちぱちと拍手を浴びせる。ぼくは瞬時に理解した。もうなにをいってもむだなのだ。目の前におかれたグラスをかかげ、うつむいたまま吐き捨てる。 「卒業おめでとう。かんぱい」  それを合図に、かんぱーいという声が重なってこだました。グラスとグラスが優しくふれ合い、きらんと宝石のようにまぶしい音を立てる。ぼくはちびりとグラスに口をつけた。これがアルコールならばまた気分もちがってくるのだろうが、あいにく中身はきんきんに冷えた三ツ矢サイダーだった。グラスのふちに食い込んだレモンは子どもの背伸びでしかない。 「おめでとう。今日はおじさんのおごりだ。じゃんじゃん食えよ」  なぎさのとなりで、バンダナをしめた男性が親指を立てた。生地を熱い鉄板に流し込んだときの、じゅわーという音が鼓膜を突き抜ける。友人の家が飲食店を経営していると、こうしたイベントで絶大な恩恵をもたらすのだ。
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