プロローグ

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   幾億の星がちりばめられた夜空のスクリーンに、目に涙をたたえるひとりの男性が映し出された。カメラは徐々にズームしていき、その表情を鮮明にとらえていく。口唇を噛み、声にならない叫びを必死で抑えているようにみえる。 「容疑者はたばこの火につい気を取られて、運転を誤ったと供述しているそうですが」  レポーターのマイクが、男性の口元に寄せられた。ぼくをふくめた全国の視聴者が固唾をのんで見守る中、男性は無表情で淡々と答える。 「なんで、たばこの一本や二本、我慢できんのですか」  それは誰に向けて放った台詞だったのか。レポーターが答えられるはずもない。ましてやこの場にいない加害者に届くはずもない。それでも男性は、やり場のない怒りをマイクにぶつける。
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