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   そうなのだ。ぼくを除いた全員が、すでに就職の内定をもらっている。ぶーちゃんは大船にある工場へ、風花は化粧品の販売員、そしてなぎさはバイト先の居酒屋に。それぞれがやりたい仕事と呼べるものではないが、人間が生きていくためにはどうしても金が必要なのである。いわば、妥協の産物。夢だけでは食っていけないということを理解している時点で、連中はぼくよりもずっと大人なのだろう。 「ここで働かせてもらえば」ひらめいたように風花がいった。ここ。このこじんまりとした――売り上げも見込めない、数年先には存在すらも危ぶまれる――お好み焼き屋で。バンダナをしめる寸前で、想像力にストップをかける。 「あかねたんはなんていってるの」  口をひらいたのはもちろんなぎさだ。ぶーちゃんはハングリーマンに夢中で、しゃべる気配すらない。ぼくはカウンターを指先でこつこつと無意味にノックしながら、つぶやくようにいう。
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