462人が本棚に入れています
本棚に追加
「よくみてるね」
「もちろん。瞬たんの中では終わったことかもしれないけれど、わたしの中では現在進行形の気持ちなの。好きなひとが苦しんでいる姿はつらい」
ふとみれば、なぎさはいまにも泣き出しそうな顔をしていた。込み上げる罪悪感。ぼくは彼女になにもできない。たとえフルマラソンの世界記録を十分更新しても、ボクシングの世界チャンピオンを一撃でKOしても、彼女の涙をぬぐえはしない。自分の無力さを痛感する。
「気持ちはうれしい」
それでも、手を伸ばしてしまう。ほんのり染まった茶色の長い髪。うしろでひとつに束ねたそれは、いつもぼくのとなりで甘い香りをただよわせながらゆれていた。何度もふれた。何度もキスした。淡い記憶がよみがえる。
最初のコメントを投稿しよう!