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  「よくみてるね」 「もちろん。瞬たんの中では終わったことかもしれないけれど、わたしの中では現在進行形の気持ちなの。好きなひとが苦しんでいる姿はつらい」  ふとみれば、なぎさはいまにも泣き出しそうな顔をしていた。込み上げる罪悪感。ぼくは彼女になにもできない。たとえフルマラソンの世界記録を十分更新しても、ボクシングの世界チャンピオンを一撃でKOしても、彼女の涙をぬぐえはしない。自分の無力さを痛感する。 「気持ちはうれしい」  それでも、手を伸ばしてしまう。ほんのり染まった茶色の長い髪。うしろでひとつに束ねたそれは、いつもぼくのとなりで甘い香りをただよわせながらゆれていた。何度もふれた。何度もキスした。淡い記憶がよみがえる。
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