プロローグ

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  「たばこが吸いたい。そんなくだらん欲求のために、なんで罪のない子どもらが犠牲にならんとあかんのですか」男性の目が鋭くなった。 「あいつ、死刑になるんですよね」  レポーターは返す言葉もなく、ただ男性の口元でマイクを小刻みにゆらすだけだった。失った者が抱く怨恨は、必ず奪った者へと矛先を向ける。ぼくはそれを、いやというほどみてきた。 「死刑にならへんのやったら、いますぐここに連れてきてくださいよ。無罪でもかまいません。おれがあいつを殺す。うちの子の仇を討たせてください。こんな理不尽な話ありませんよ」  ふたたびマイクが縦にゆれたことから、レポーターが首肯したのがわかる。愛する子どもを失った男性の悲しみが、同情という形でカメラに映っていた。もちろん、ぼくも共感を覚える。
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