プロローグ

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  「ひどい話だね」ひとりごとのように、ぼくはつぶやいた。背後に立つきみは、まだひとことも口をひらいていない。このあと、男性が口走った台詞により、ぼくの共感は消滅する。 「なんで法は、加害者ばっかり守るんです」  男性の口唇がわなわなと震える中、ぼくの熱は急激に冷めていく。完成間近だったジグソーパズルが、大地震によってばらばらになった気分だ。悔しさよりも、虚しさが込み上げる。 「加害者の人権ばっか尊重して、被害者の気持ちはむしですか。弱い者ばっかいじめて、人権、人権、よくいいますわ。ひとを殺したやつに、人権もくそもあるわけないやないですか」  噛みつくように、男性が叫んだ。「なぜかって」ぼくはふっとほくそ笑み、座っていた石からゆっくりと腰を上げた。怒りで顔を紅潮させている男性に、ささやくように語りかける。 「それは、きみ自身が法に守られているからじゃないか。認識したまえ。いま、きみ自身が存在していることが、すでに奇跡的なのだと」  くっくと、口元をゆがませる。もちろん、ぼくの声は男性には届かない。だが、それでいい。
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