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「ピピピピッピピピピッ」 目覚ましが六時ちょうどに鳴り出す。 瀬戸明広(せとあきひろ)はベッドから這い出し、目覚ましを止めた。足の踏み場も無い程ではないが、結構散らかっている。しかし、そんなことは気にせずに、部屋のドアを開け、階段を降りた。 「おはよう。」 「おはよう。ご飯出来てるわよ。」 「ああ。」 洋子(ようこ)はいつも自分より早起きしてご飯を作っておいてくれる。明広は目をこすりながら、洗面台の蛇口を捻った。顔を洗ってから、和室を覗いてみた。息子の武志(たけし)は贅沢にも洋子の布団まで占領して、気持ち良さそうに眠っている。 明広は席についた。 「いただきます。」 「どうぞ~。」 洋子は鮭の塩焼きに使ったであろう、魚焼きグリルを洗っている。 「ごちそうさま~。」 朝食を終えると、明広は歯を磨き、スーツに着替えた。もう七時だ。 「パパおはよ~。」 今日は幼稚園が休みだというのに、起きるのが早いやつだ。 「おはよう。………じゃあ行ってきま~す。」 「行ってらっしゃ~い。」 二人揃って言ったが、武志はどうしても「いってらっさい」になる。 「じゃあ、武志。行って来るからな~。」 明広は革靴を履いて外に出た。自転車の前カゴに鞄を入れ、スタンドを降ろす。門を開け自転車を出すと、窓から武志が手を振っていた。手を振り返してやると、喜んで奥へ入って行った。洋子に言いに行ったのだろう。 「良いですね~子供は。」 お隣りの岡島信夫(おかじまのぶお)さんだ。八十五歳の一人暮らしだが、今だに元気だ。時々武志と遊んでくれるという。 「あ~岡島さん。おはようございます。これからお散歩ですか?」 「いえいえ。今帰って来たところです。」 「そうなんですか!?お早いですね~。」 「いやいやそんな…。今、武志君はいくつですか?」 「今年で五歳になります。」 「もうそんなに大きくなったんですか~。早いですね~。」 岡島の目尻にしわがよる。 「早いですよね~。あっもう行かなきゃ。」 「お気をつけて。」 「はい。行ってきます。」 家から駅までは自転車で四分程だ。そこから、電車に乗って、成田までは一時間と掛からない。 今日はニューヨーク行きの二百三十二便、エンジン各翼二機、計四機搭載の大型旅客機(ジャンボジェット)だ。尾翼の辺りには、明広の勤める、『国際空通』『ISW(イスウィー)』のロゴが入っている。ISWとは、『Inter sky way』の略称だ。
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