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食堂の扉の前で待つこと約30分。
私が待っていた相手が、ようやく目の前に見えてくる。
サラサラの綺麗な黒髪に、真っ白なドレス。
ただ歩いているだけというその姿にも、どことなく気品が漂っている。
そんな我らが愛すべき姫様の横をちょこちょこと歩く人影に気づき、少しばかりため息がでてしまう。
姫様の隣を歩くだけでも、許しがたいことなのに、姫様に歩幅まで合わせてもらうとは……。
「アーシアっ!」
おまけに彼女は、姫様を差し置いて私のもとに手を振りながら駆け寄ってくるでははないか。
「キャロル。姫様の前ではしたないですよ」
「あぅぅ……ご、ごめんなさい」
ハッと自分のしたことを振り返り、罰の悪そうな顔をするキャロル。
「よいのですよ。
元気があるということは、とっても良いことです」
後ろから歩いてやってきた姫様が、頬笑み優しい言葉をかける。この優しさが、姫様らしいといえば姫様らしいことなのだが、この一つ一つの発言に、どれほどの力があるものなのか、それを姫様はもっと理解したほうがいい。
「姫様。あまりキャロルを甘やかしてもらっては困ります」
ただでさえ、他の使用人よりも仕事が器用にこなせないキャロルをこうも甘やかされてしまっては、他の使用人たちに示しがつかなくなってしまう。
「甘やかしているつもりはないのだけれど……」
このお方もこのお方で、無意識にやってしまってわけで、どうにも困ってしまう。
「いいですか姫様。
キャロルはここに来てから、もう2年が経ちます。それなのにもかかわらず、いまだに仕事がおぼつきません。だから多少きびしくしていただくくらいがちょうどいいのです」
それが一番、彼女のためでもあるような気がする。
甘やかしているのは姫様だけではない。
ほかの使用人たちも、年齢的に小さなキャロルが可愛いのか、ちやほやとはやし立ててしまう。
彼女が重たいものを運んでいれば、変わってやり、彼女が困った顔をしていればすぐさま救いの手を差し伸べてやり……
それではまったく彼女の為にならないではないか。
「まだ2年、ですよアーシア。
これからです。これからゆっくりと覚えていけばいいではないですか」
「姫様……」
またもやフォローを入れられてしまい、ついため息が出る。
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