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「そっと……そーっと」
厨房からリリィ様の待つ食堂へと向かう道を、私はひたすら慎重に歩く。
今私が持っているのは、リリィ様のスープが盛られたお皿。
だからこぼさず、ちゃんと運ばないといけない。
と、とっても責任重大だ。
「キャロル、大丈夫ですか」
わあっ、すごい。
私の横をスタスタと何気ない顔で何度も通り過ぎていくアーシア。
その手の上には、私が持っているリリィ様のお皿とは全然違うけど、でもたぶん、同じようにスープが盛りつけられているはず。
「だ、だいじょうぶ」
お皿……。
リリィ様が使っているお皿は、普段私たちが使っている物と違う。
そういう知識がまったく無い私でも、このお皿はとっても高価なものなんだと一目見てわかってしまうくらいだ。
もし、今手を滑らせてこのお皿を割ってしまったら……
「あわわ……」
だ、だめだめ!
そういうことは考えちゃだめだ!
アーシアだって、失敗することを考えると失敗するって言ってたもん。
この間、私が割ってしまったお皿が私たちのお皿で本当に良かった。
「はわあっ!?」
そうやって、一瞬でも注意をそらしてしまったのがいけなかった。
気づけば、スープの表面が大きく揺れている。
注意がお皿のことへと向いてる間、無意識のうちに歩くペースを速めていたのかもしれない。
「どっ、どどどっ」
どーしよう!
そうだっ、と……とりあえず、お、落ち着かないと!
えっとえっと、たしかこういう時はいったん止まった方がいいって聞いたような気がする。
止まって、ジッとしよう。
「ぅ……ぅ……」
ほら……。
ジッとして、静かにしていれば、だんだんと揺れが収まってくる。
「ふぅ……」
とりあえずこれで一安心だけど、まだまだ油断は禁物だ。
「うんっ……」
ぐっと唾を飲み込み、やる気の注入。
これをちゃんと運べたら、リリィ様はきっとたくさん褒めてくれるはずだ。
あ……でも、運んだお皿の数は、アーシアの方が全然多い。
私がしたことといえば、お皿を運ぶ前のテーブルの上のお掃除、それとスプーンやフォーク、ナイフの準備。
そしてこのスープ……。
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