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「リリィさまぁ~! どこですかぁ~」
廊下をパタパタとかける音とともに、私の名を呼ぶ声。
その可愛らしい声をもう少し聞いていたくて、一瞬このまま隠れていようという考えが頭に浮かんだが、それと同時に目に涙を溜めて私に訴えかけてくる彼女の顔が浮かんできてしまい、心の中でそっと謝る。
「わたくしはここですよ」
目を通していた文字だらけの分厚い本を閉じ、廊下に顔を出す。
「ああーリリィ様! もう、探しましたよぉ」
私を見つけて安心したのか、それとも怒っているのか、顔を赤く染めたキャロルが短く束ねた二本の髪を揺らし、ため息交じりで私の近くにかけてくる。
「廊下は走ってはいけませんよキャロル」
「は、はぃ……すいません」
冗談半分のからかいで言ったつもりなのだが、こう素直に謝られてしまうとなんだかとても申し訳なくなってしまう。
「わたくしになにか御用ですか?」
「い、いえっ……その、リリィ様のお姿が見られなかったので……」
「もう……わたくしはそんなに子供じゃありませんよ。ちょっとだけ図書室へ本を借りに来ただけです」
自分よりもはるかに年下の少女が、息を切らしながら大慌てで心配して探し回ってくれるのはとても嬉しいことなのだが、やはりすこしだけ違和感を感じてしまう。
仕事柄キャロルが私の身を心配するのは仕方のないことなのだが、こういう小さなことでいちいち騒いでいてはお互いの身がもたない。
「で、ですがアーシアがリリィ様を最後にお見かけしたのは3時間くらい前のことだと言っていましたので……」
「あら……?」
それはおかしい。
確かに私は、自室を出て図書室へと向かう際、アーシアと挨拶を交わした。
しかしそれはつい先ほどのことだ。
それから3時間も経過してるわけが……
「キャロル」
「は、はい!」
「今が何時だかわかりますか?」
「は、はい、えっと……」
胸元から小さな手巻き時計を取り出す仕草も、まるでおとぎ話に出てくるウサギの様で、なんだか可愛らしくてつい微笑んでしまう。
「ちょうど12時になります」
「あらあら……」
つまりどういうことだろう。
今日の自分のふと生活を振り返ってみる。
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