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私が自室を出たのは時計の短い針が、9の文字の上をを少しばかりすぎた頃。
朝食を食べ終わり、空白の時間を埋めるために読書でもしようと、図書室に向かったのだ。
そこから本を2、3冊選び、自室に持ち帰ってゆっくり読もうとうい考えだったのだが、ペラペラと本をめくっていくうちに、ついつい夢中になってしまってそのまま3時間近くも経過してしまった……そういうことになるのだろうか。
「あ……あの、リリィ様?
もしかして、3時間ずっと図書室のほうに?」
「困ったわ……。3時間も読んでいたというのに、まだ半分も読み終わってません」
「そういう問題ではございません!!」
「きゃっ」
小さな体から出された大きな声に驚き、つい情けない声をあげてしまう。
「お部屋から出られる御用があるのならば、まず、私に一言申してください!」
私にきちんと声が届くように、精一杯背伸びをして、一歩一歩小さな歩幅で私に攻め寄ってくるキャロル。
「す、すぐに自室に戻るつもりだったのです」
そんな姿でさえも可愛らしく思えてしまい、にやけそうになる口元を必死に抑え、平常を保つ。
「それでもです! リリィ様にもし万が一のことがあったりでもしら……私は……」
「キャロル…」
何かを言いかけた彼女だが、その先をこれ以上言うつもりはないらしく、シュンと顔を下に向け、私から視線をずらしてしまう。
彼女がなんと言おうとしているのか、だいたい想像はつく。
炊事洗濯はあまり上手とは言えないが、彼女は自分の身よりもまず私を心配し、そしてどんな時でも私のそばにいてくれる。
本来ならば、お姉さんである私が彼女にあれこれしてあげなければいけないのだが、私が彼女の為になにかをしようとすると、彼女はそれを極端に嫌がる。
階級や身分、そういったものがあるこの世の中で、それは仕方のないことなのだけれど、もっと彼女と普通に接したい。そう思ってしまう私は、すごく我がままなのかもしれない。
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