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「お父様に会わせる顔がありませんか?」
返ってくる答えはわかっているはずなのにもかかわらず、この静まりかえる空気が耐えられなくて、こんな意地悪な問いかけを振ってしまう。
「そっ、それ以上にです!
それ以上に、もっとずっとダメです!」
彼女自信の中にはっきりと存在している想いでも、それをどう言葉にしたらいいのかわからないのか、ちょっと……いやかなり舌足らずな言葉で返答が返ってくる。
「ふふっ、あらあら。いったいなにがだめなのかしら」
そんな慌てふためく様子が面白くて、私はさらに続ける。
「うう……リリィ様はいじわるです……」
上目遣いで目に涙を溜めるキャロルの姿を見て、悪いことをしてしまったかもしれない。と後悔する。
「……ごめんなさい。
心配をさせてしまったようですね。
次からは気をつけます」
「いえっ、そ、そんな!
わ……私のほうこそ急に大きな声を出してしまって申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げる彼女を見て、なんとも言えない複雑な気持ちになる。
「キャロル」
「は、はい!」
「今回の件で、非があるのはわたくしの方ですよ? あなたが謝る必要なんてどこにもありません」
「で、ですが私のような者がリリィ様に偉そうに……」
「キャロル」
一度目の呼びかけとは変わって、今度は強めに彼女の名前を呼ぶ。
「はいっ」
なにか失態をしたのかと、体をビクつかせるキャロル。
「わたくしは嬉しかったのですよ?」
「え……?」
「わたくしの身分を知っての通り、普段、わたくしを叱ってくれるものなどいません」
「あ、あたりまえです。
一国の姫であるリリィ様お叱りになってよろしいのは、お母様であるベルティユ様と、そして、お父様であるファブリス様だけでございます。私のような下級の身分である者がリリィ様をお叱りになるなんて言語道断でございます」
「そうです。
キャロルの言うとおりです」
そう当たり前。
それがこの世界の常識。
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