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「着いたぞ♪」
僕はこの時汗だくだった。
重たいおじさんを押すのに一生懸命だった事と転ばないようにしていた気疲れからだけど、そんな事なんて知らないおじさんは笑いながら着いた事を知らせて来る。
そんなおじさんにちょっとだけムカついた僕は、最後に自転車を思いっきり押して惰性で進んで貰った。
ささやかな気晴らしだった。
キィーー!
ブレーキの音を高々と響かせながら大きな門の横にある扉の手前に停まったおじさんは、自転車に乗ったまま片足でヒョイヒョイヒョイと動かして扉に近づくとインターホンに何かを話し掛けていた。
そうやって自分で進めるなら少しは漕いでくれればいいのに…
言葉には出さず心の中で愚痴ってしまった。
しばらく待っていると大きな門が開いて、中からビシッとスーツを着こなした優しそうな顔立ちのお爺さんが車イスを押して駆け出して来た。
「旦那様! 大丈夫でございますか!?」
このお屋敷の旦那様なの?
旦那様と呼ばれたおじさんに多少は驚いたけど、それよりもやっと帰れる事に安堵した僕はおじさんが車イスに移るとすぐに自転車に乗り帰って行った。
「ちょっ…」
おじさんが声を掛けていたようだけど、僕は帰る事しか頭になかった。
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