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そんな中、荒野の真ん中を一機のMSが歩いていた。
ネイビーブルーにファントムグレーといったダークな色のMSは、昼間の明るい荒野では浮いて見える。
(私は…何処に行けばいいんだろう)
MSには、黒髪の少女が乗っていた。
この少女には記憶が一切ない。両親、自らの名前すら、殆ど覚えていない。
ただ、一つだけ覚えていることがある。
自らの乗る『RGMー79Q ジム・クゥエル』というMSは、何よりも大切なものだということ。
どうして私がこのMSに?
なんでこの子(MS)が大切?
…そういったことは思い出していない。
(私、何かを思い出そうとして旅をしているのかな…)
よく分からないが、少女はそう思うことにした。
ともかく今は安全な場所が欲しい。
「へっへっへ、いいMSじゃねえか…」
(……?)
岩陰からぞろぞろとMS『DTー6800 ドートレス』が出てきて、少女のジム・クゥエルを囲む。
「俺たち困ってんだよねぇ。それ、くれねぇか?」
ドートレスのパイロットと思われる男の言葉に悪意を感じたが、この状況で断ることはそうそう出来なかった。
仮に抵抗するとしても、丸腰のジム・クゥエル一機で、少なからず武装したドートレス複数を相手にするなど無謀と言える。
少女はジム・クゥエルに両腕を上げさせる。
「へへ、物分かりが良くて助かったぜ」
続いてハッチを開き、コクピットから出る。
「おいおい、パイロットは女の子だぜ!」
「しかもなかなか可愛いじゃねぇか…」
「なぁ、この子マワそうぜ?」
「おっ、いいねぇ!」
「最近ムラムラしてんだ、ヤらせてもらうとしようかぁ!」
ゲラゲラと、ドートレスのパイロット共の下劣な笑い声が響く。
少女は為すすべもなく苦痛と屈辱を味わうことを覚悟した。
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