371人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
私は、中学では三年間、吹奏楽部に入っていた。
担当は、トロンボーンだ。
高校でも是非入りたいと思っていたが、一人で入る勇気もなく、アンケートの"興味のある部活"の欄に、吹奏楽部と書いたぐらいで、どうしようか迷っていた所だった。
そんなある日、いつものあの先生の国語の授業が終わり、教科書とノートをしまっていた時だった。
「田中、吹奏楽部に入らない?」
「えっ…」
びっくりした。
先生が、いつの間にか近くに来て、私に話しかけていたのだ。
ただでさえ人見知りな私は、かなり緊張してしまって、まともに先生の顔を見れなかった。
「入りたいけど、一人はちょっと…」
「山下も吹奏楽部に居たみたいよ」
名前を聞いて、その人物を探す。
―山下…山下…ああ、あのコか…
「山下誘って、一緒においで」
なんだか、その言い方が授業と全く違い、優しくて可愛くて、つい首を縦に振ってしまっていた。
-放課後-
先生に言われた通り、山下さんを誘って音楽室へと向かった。
ちょうど新入生がまだあまり来ていなかったらしく、先輩達は私と山下さんを歓迎してくれた。
…もちろん、先生も居た。
すると、初めて見る素らしい優しい笑顔で、私達を迎えてくれた。
間もなく、私と山下さんは吹奏楽部に入部した。
山下さんとは割とすぐに仲良くなり、下の名前のユミで呼ぶようになった。
きっと、この吹奏楽部に入って、授業とは違う素の先生を知ってから、先生の姿を目で追うようになったんだと思う。
最初のコメントを投稿しよう!