妹の友達

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 なんだか気恥ずかしくなって視線を逸らすと、七瀬は不思議そうに首を傾げた。 なんでただの妹の友達をこんな変に意識しなくちゃいけないんだよ。 きっと、七瀬への罪悪感が良くないように作用しているだけだ。 そうに違いない。 「そ、そうだ」 「はい、お兄さんどうしました?」 「ちょっとそこどいてくれるか? お前の後ろの自販機に用があるんだけど」 「あっ、すみません……」  小脇に置かれた鞄を掴み、ペコペコ頭を下げながらいそいそと横へ移動する七瀬。 そのまますぐ隣のベンチへ座り込んだ。 自販機に視線を移しつつ、尻ポケットから財布を取り出す。 「というか、お前なんで地べたに座ってたんだよ」 「だって、自販機が温かかったんですもん。明るいですし」 「…………」 「温かいと思ってもたれかかってたら、いつの間にか寝ちゃってました」  えへへ……、と自嘲的な苦笑を浮かべる七瀬。 コーラのボタンを押そうとしていた指が止まる。 正直、笑えなかった。 七瀬は笑ってもらうつもりだったかもしれないが、笑えるはずがない。 人差し指がボタンを押す。 ゴカンッ!とけたたましく缶が吐き出された。 取り出した缶を見て、七瀬が感嘆の息をついた。 「お兄さん、ブラックコーヒーなんて飲むんですか?」 「いや、これは俺じゃなくて」  指先でスチール缶の縁を掴み、七瀬に差し出す。 しかし、七瀬は手元に差し出されたコーヒーを受け取らず、眉をひそめてこちらを見上げた。 「あの、私、その、申し訳ないんですけど……」 「わかってる。飲めないんだろ? ブラックコーヒー」 「なっ!? わかってるならなんで……」 「こいつは帰ってから罰として真奈美に飲ませる。お前はほら、とりあえず指でも暖めろよ」 「えっ……?」  缶と俺の顔を交互に見て、目を瞬かせる七瀬。 三、四度ほど見比べた後、納得してくれたのか、表情が困惑から笑顔に変わった。 柔らかな笑みで、俺の手からスチール缶を受け取る。 コートの袖から手が姿を現し、そっと両手で缶を包んだ。 「えへへ、温かいです」 「そうか。自販機壊れてなくてよかったな」 「はい。ちゃんと温かいです」 「そうか」 「はい」  大事そうに両手に持った缶を見下ろす七瀬。 嬉しそうに声色を弾ませながら、ふっ、と缶に息を吹き掛ける。 真っ白な吐息が、煙のように缶にまとわり、やがて消えてしまった。
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