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其処は、何もかもが紅かった。空も、大地も、そこに漂う臭いすらも、全てが紅の深淵にある。そうセイランは感じていた。しかし唯一、その世界には例外があった。紅い大地、そこに横たわる人々のみは暗くぼやけ、煤けたような惨めな色彩を晒している。霞んだ視界の中では細部までを覗き見ることは出来なかったが、幾重にも無造作に積み重なり、果ての無い大地に打ち捨てられたその色は、自分を除いて全てが虚ろな骸であることを確信していた。そして、これから自分も彼らと同じようになることも。
どれほどの時が経っただろうか。刹那にも永久にも感じられた紅の世界。其処に横たわるセイランの視線の先で、巨大な何かが立ち上がったのを彼は見た。世界と同じ、紅にその身を染めた荘厳な体躯。ヒトと比べるには大き過ぎる。竜ですら、比較の対象になりえない。ここまで大きな生物をセイランは見た事は無かった。最初は御伽噺に登場する巨人だと思ったくらいだ。馬鹿馬鹿しい思い付きだと自嘲したが、この紅の世界も現実にはありはしないのだ。否定できる根拠などどこにもない。
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