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悠大な紅の巨躯に見とれるセイランの霞む視界へ、不意に新たな影が現れた。姿形、そして色彩は横たわる骸たちと何ら変わりはしないが、唯一の違いはそれがしっかりと紅の大地に立ち、同じく大地に立つ巨人へと悠然と歩を進めている事だった。その背中には巨人へ立ち向かう事への恐怖や戸惑いは欠片も無く、超然とした余裕すら感じられた。
やがて、紅の影が巨人の足元へと到達し、その体躯を見上げる。巨人の足首ほどしかない背丈は、一度踏み潰されればひとたまりもないだろう。危ない、とセイランは叫ぼうとした。しかし、警告は彼へと届くことは無く、陸に上げられた魚のように唇が空しく開閉するのみだった。わずかの生気も失せた彼に出来るのは、巨人の足元にある影が無残に圧死する様を眺める事だけだった。そして、セイランの予想と相違なく、巨人の足が上げられる。目を反らす事すら出来ない死を待つのみの体を呪った彼の視界で、不意に足元の影がこちらを向いた。微笑んでいるのだろうか、閉じかけた双眸では表情の仔細すら伺えないのに関わらず、セイランにはそう見えたのだ。同時に、気が緩んだのか、または精根尽き果てたのか、彼は抗えないまどろみの中へと堕ちていく。巨人と対峙する影へと祈りを捧げながら。
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