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「ってか、本当に最近眠いわ。この頃はさ、声が段々大きくなってる気がするんだよね」
「君って住所どの辺?」
「うっわ!びっくりした!」
「なにが?」
「君って他人に興味示すんだね」
失礼なと感じたが口には出さなかった。
「僕は●●の近くの家だよ」
間違いない。
「最近は一時くらいが多いかな───そんでね」
僕はそのあとの彼の会話を覚えてない。
「退部するの?」
彼女がもう一度聞き直す。
「うん。昨日伝えようとして、忘れてた」
嘘だ。
「そうなんだ。でも、これからも仲良くしてくれるよね?」
彼女は理由を訊こうとしなかった。
「うん。これからも友達として仲良くしてくれたら嬉しいよ」
口をつぐんだ彼女を見ていられずに、僕は用事を思い出したふりをして、去った。
僕は無料タクシーだったらしい。
だけど今は違う。
客がいない。
営業がなりたたないのだ。
幾度となく往復したこの坂道。
慣れたもんでペダルをこぎ出すと、何故か軽快でしっくりこない。
まるで体重が半分になったみたいだった。
午前00:46分頃
どこからか阿鼻叫喚が聞こえる。
その場所と原因を僕は知っている。
「わっーーーーー!!!」
豪快に大口を開けて、咆哮していた。
自転車を停めると彼女は僕に気づく。
「なに?」
冷徹で、人との距離に無理矢理壁を作ろうと声を出す。
僕が何も言わず彼女に歩み寄ると、ポケットをまさぐって小銭を探す。
すかさず僕が缶ジュースを投げて、彼女はポケットから手を抜いて、驚きながらも受け取った。
「お前キモいんだよ」
そんな台詞は耳が痛くなるほど聞いた。
今さらだった。
僕は自分の分のジュースを一口で飲みきる。
「なに?私を蔑もうっての?仕返し?」
バカか。こいつは。
「きっと私は今クラスで笑い者なんでしょう。知ってるわよ。知らされたわよ!あんたはあいつらの刺客?」
本当のバカだ。こいつは。
「良いわよ。言うだけ言えば良いじゃない。美人でもないのに、少しちやほやされただけで、舞い上がって、騙されてるとも知らずに友達を庇うような、こんなくそみたい───」
「わっーーーーーーーー!!!!!!!」
生来、大声なんて出したことがない僕が、これが僕の声なんだとはじめて知った。
「わっーーーーー!!!わっーーーーー!!!わっーーーーーーーーー!!!!!!」
彼女がハマるのも肯ける。これはクセになる。
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