寡黙な僕

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僕は知っている。 彼女は泣いているのだ。 それが『ジュース買ってきて』なのだ。 彼女はそういった時に、決まってここに来るし、ここでそう命令する。 どういった理由で泣いているのか知らないし、本当にどうでもいいことなので考えることすらしない。 あぁいった奴が泣くのは本当につまらないことなのだろう。 ただ僕は知っている。 ここが彼女と彼女の母親との思い出の場所ということを。 初めてここに連れて行かされた時に、ちらっと言ったのを耳にはさんでいた。 たったそれだけのことである。 あぁ本当にどうでもいい。 彼女は一つの缶ジュースを受けとると、一口で飲みほした。 僕はというと、大きな石に座り、ちびちびジュースをついばむ。 景色が良いので尚更安いジュースも美味しくなるってもんだ。 突然、「うわっーーーーー!!!」 彼女が咆哮した。 突然ではあったが見慣れた光景ではある。 「わっーーー!!わっーーー!!わっーーーーーーーー!!!」 「わっーーー!!うっ、ゴホッゴホッ!」 何度も裏返り、何度も咳き込む。 「ああっーーー!!!」 それでも彼女は吠える。 言い様のない感情に押し潰されそうになっているのかもしれない。 「はぁはぁ…っはぁはぁ……」 僕はこれについて絶対に何も言わないし、言ったもんなら何をされるかわからないので言えない。 どうでもいいから結局言わないのだけど。 「帰る」 満足したのだろう。 彼女がそういうと僕はまた自転車に跨がらなけりゃならない。 急いで自転車を準備する。 「ねぇ、あんた生きてて楽しい?」 彼女は僕に語りかける。 しかし僕はこれをいつも無視する。 「あたしはね、楽しくない」 彼女が勝手に話始めるからだ。 「だってつまんないんだもん」 この前は楽しいって言ってただろが。 「人生って何だろう」 知るか。 「あたしはね、思うんだ。死ぬときにわかるって。ハハハ」 何がおもしろいんだ。おい。 「でも、これはないな、って思ってる」 どっちだよ。
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