寡黙な僕

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「例えばさぁ、みんなが思い描く成功した人生って、仕事して、結婚して、子供生んで、退職して、年金生活を送るみたいなんじゃん。でもさ、それとは逆に、全く働かずに、永遠貞操守って、子供から嫌われて、国から僅かな金を貰って生活してる人もいるわけじゃん」 まぁ、いるだろうな。 「その人たちが死ぬときは何考えるんだろって思うわけよ。あたしは」 お前が何考えてんだよ。 「結局どっちも同じような年齢まで生きてんだし、どっちみち死ぬわけでしょ。ならどっちでも良いんじゃないって考えるわけよ。あたしは」 へぇー。すごーいですね。 「人に迷惑かけた、かけないなんてどうでもいいよ。マジで。日本とかどんだけ非生産者多いっつー話だし。あたし達はそれを見苦しく奪い合ってるだけだろ。第一次産業以外の人が文句言ってると腹立つんだよね。あたしは」 あたし、あたし、うるさいよ。 「でもね、あたしはね、それでもこの世界が好きなんだって」 あぁそうかい。 彼女は最後にいつも意見を纏めず、中2発言をかます。 実際は高2なのに、それでも。 嫌いじゃなかった。 彼女の談義が。 彼女はいつも痛切だ。 どうしようもなく、だ。 珍しくどうでもよくない感情を抱いてしまった。 体育祭はどれだけ嫌っていようとやってくる。 元来、帰宅部で鍛えられた無能な脆弱っぷりを発揮するにはちょうど良い機会だ。 そんなことだから自分の出る競技は目も向けられない50m走とかになってしまう。 早めに終わらせてしまえばどうにかなる戦法だ。 そして、まとまりの悪い僕のクラスのリーダーは、口の悪いご主人様の親友の女で、これまたDQNであることは言うまでもない。 『みんなで力を合わせて』とか、『みんなで応援すれば優勝できる』とか、思ってもないことを口にして、上がる予定のなかった士気を強引に盛り上げるのがリーダーの仕事。 それに飽くまでのっかっているふりをするのが僕達の仕事。 ここまで僕も性格がひねくれていたわけではなかったが、どうも僕を含めた全般的に言う『運動できないメンバー』に向けての蔑視が痛いほど伝わってきたら、もうしょうがない。
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