寡黙な僕

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正式に付き合ってと言ってはないが、形式的にみて2回目のデートをしている時である。 彼女は非常に女の子らしいと感じずにはいられなかった。 物を選ぶときも慎重だし、重い荷物を僕が持つと言った時でさえ断った。 さらには、小さい缶ジュースだって一口で飲みほせない。 きっと僕は幸せ者なのだ。 絶対的に幸せ者だと、そう思わせた。 偶然にも、あの暴虐的なDQN彼女を見かけた。 都会の、夜も近しい時間帯、カップルが多くなっていく中、1人うつむきかげんで歩く彼女。 隣の彼女は気づかなかったようだ。 何せこれだけの人混みの中で見知った顔を探すのは難儀だからな。 あぁ、どうでもいい。 きっと彼氏にでも振られたのだろう。 振ったのかもしれない。 いや、もうそれはどうでもいい。 あぁいう奴等の男女交際とは結局そういうものが多いのだ。 昔は軽蔑していた。 今は違う。 価値観の違いだと考えている。 それもどうでもいい。 僕は今日久しぶりに彼女を見かけた。 たったそれだけだ。 それに僕には重大な、どうでもよくない仕事が残されていた。 僕は今日、この隣にいる彼女に告白せんとしている。 あの腐れきっていた僕がだ。 先程は我ながら無駄な思慮に至ってしまった。 そう。僕は告白せんとしている。 僕は念入りにデートのプランを立て、それを忠実に実行した。 かなりの成功をおさめ、今まさに最後の任務を遂行しようとしていた。 きっと大体の確率で成功するだろう。 当事者である僕でさえ自信に満ち溢れているのだから尚更だ。 ただ僕のプランに抜かりがあったとすれば、それは彼女を見かけてしまったことにある。 その日、僕は告白できなかった。 翌日の学校ほど憂鬱な朝がくるのをためらった日はない。 美術部の彼女もいつも通りに「おはよう」と挨拶をくれたが、どこかよそよそしさが感ぜられた。 僕の不甲斐なさにも問題がある。 僕は当然その彼女に謝って、もう一度チャンスをいただかなければならない。 なぜなら一度ならず二度も彼女の心を弄んでしまったからだ。 僕からみてもそう思うのだから、その行為はきっと道徳にそくして正しくないのだろう。 しかし、なぜだろう。 この変な、反逆心と言おうか、反抗心は。 誰かが僕の体内に忍び込み、反旗を翻さんとしている。
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