冬の終わりそして春へ

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年の瀬も迫り誠の自宅には友人達が集まっていた。 二ノ宮調教師、村木、千春達とささやかな忘年会を開いていた。 グツグツと煮える鍋を皆に取り分ける千春。 「それにしても今年は良い年だったわね。 まぁ村木君の活躍はいつもの事として誠さんもGI勝てるなんてね」 誠はビールを片手に千春から取り皿を渡される。 「まぁ今年はいろんな人に助けられたよ、早野オーナーに二ノ宮先生に。 あっ、もちろん千春さんにもね」 「何よ、その取って付けた様な扱いは。 おい誠! 良かったなぁ…」 『千春さん、もうできあがってる…』 きゃっきゃとはしゃぐ千春に苦笑しながらその横に座って静かに飲んでいる今井に視線が行く。 「今井さんにも本当にお世話になりました」 誠は今井のグラスにビールを注ぐ。 「いや、私はオーナーの変わりを勤めただけですよ。 それに、そのチャンスを生かしたのは貴方です。 お礼を言うのはこちらの方ですよ」 誠は首を振った。 早野が体を悪くしてからは秘書の今井が早野の持ち馬を管理していた。 誠達のやり取りを見ていた二ノ宮が口を開いた。 「ところでオーナーの具合はどうなんですか?」 今井は笑みを浮かべ 「朝日杯を勝った時のオーナーの喜び様ったら見せたかったですよ。 まるで子供の様にはしゃいでね。 そのせいか最近体調も良いんですよ」 誠は思った。 『騎手をしてて1番嬉しい瞬間 それは自分が勝てた事ももちろんだがその馬に携わる全ての人が幸せになる事。 その為には多くの苦労を伴うがその分喜びも大きい。 その人達の笑顔を見た時、騎手をしてて良かったと思える。 こんな大事な事を俺は長い間忘れていた』
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