七章 強制と言う名の鎖

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 この後の授業の内容を翔は全く覚えていなかった。  紫苑の行動の意味について、頭の中で自問自答を繰り返していたのだ。  当然それに答えなど出る筈もなく、うやむやになったまま時刻は放課後を迎えていた。  あの後、翔はどういう事なのだろう?と訊いてみたが、隆太郎は『気にするな』と言ったままその話をしなくなり、大地は『あの日で苛々してたんだよ』と笑っていた。  結局、諦めるしか翔には取る選択肢が残されていなかったのだ。  現在の時刻は四時を少し過ぎた辺り。  大半の生徒たちは下校していて周囲には少数の人間しか残ってはいなかった。  帰った生徒たちの中には大地や隆太郎も含まれている。  少なくとも隆太郎は残って一緒に行動すると思っていた為、それが翔には意外だった。  気まずい空気の中、遂に翔と紫苑を除く全ての生徒たちが教室から出ていった。  それから数分経った頃―― 「……連絡まだかな」  翔はこの緊迫した空気に耐えきれず口を開く。 「そろそろじゃないかしらね」  翔は返答があった事に息を吐き、更に問いかけようとした瞬間だった。  紫苑の鞄から『ピピピッ』という着信を知らせる音が響く。  彼女は鞄から携帯電話を取り出すと、表示を確認してから電話に出た。 「もしもし――」  翔はその様子をじっと見つめ、彼女の言葉を聞き逃さない様にしている。  そして、詳しい内容は分からなかったものの、千秋からの連絡である事を確信すると、通話が終わるのを黙って待っていた。 「そう……。わかったわ」  通話を終えたのか、その言葉を最後に紫苑は携帯電話を閉じた。  そのまま彼女は翔の方へと向き直ると、 「どうやら特に何も目立ったことはみたいね。色々と調べて里佳の様子も見に行ったそうだけど、何も変わった様子はないそうよ」  簡潔に内容を述べた。  期待していただけに落胆は大きく、翔は椅子から浮かせていた腰を落とす。 「そうか……」 「だけど分かった事が一つあったわ」  紫苑の言葉に翔は再び顔を上げる。 ,
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