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「茜達が消えたあの喫茶店のトイレは、誰にも見られずに抜け出す事が出来ない構造らしいの。窓も無ければ入り口も一箇所。出る時に正面を通らなければならない以上、里佳が見落としたとも思えない。という事は、何かしらロスターが関わっている可能性が上がったという事ね」
それはつまり、茜と香苗が何かに巻き込まれた可能性が上がった事を示していた。
額から浮き出す汗が気温のせいじゃないのは、体を覆う寒気が証明している。
これは予想していた中でも最悪の結果だったのだ。
「それで……どうするんだ?」
「そうね」
翔の言葉に紫苑は少し考え込むと、
「現状で打開策がない以上、ここにいてもしかたがないわね。私は帰るわ。あなたも気をつけて帰りなさい」
そう告げて、鞄を手に取った。
予想外の答えに翔は思わず立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待てって」
焦って紫苑を呼び止めると、
「茜達をこのままにして本当に大丈夫なのかよ!?」
彼女の肩に手を置いた。
その反応は紫苑にとって予想済みだったのか、彼女はその手を払うことなくそのまま告げた。
「わからないものをここで考えても無駄よ。千秋がまだ調べているから何かわかったら連絡するわ」
結局、それだけを残して行ってしまった。
「おいおい……」
言っている事は理解できるが、納得はできない。
呆然としたまま、翔は立ち尽くしていた。
無駄だとしても、何もしないのは我慢できないのだ。
それが自分を納得させるだけの自己満だと言われればそれまでだが、それでも何もしないよりはいいと考えていた。
「一人でも探すか……」
そう言うと、自分でも出来る事が何かを思い描く。
闇雲に探してもそれこそ時間の無駄。
だとしたら、まずは茜たちが消えたという喫茶店に行ってみるのが上策と考え、教室を出て行った。
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