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~傷跡~
11月10日、17時、件の館前。
あれから1週間近く経ったけど、件は1度も顔を見せてくれない。
鉄柵の門扉は硬く閉ざされていて、館に近づく事すら出来なかった。
「あれ…?友香里、何してるの?」
ボーっと立っていた私に、近くを通りかかった奈々子が声を掛けてきた。
「あぁ、奈々子か…。」
奈々子とは、あの日の夜に電話で黒澤と件の関係を話した。
…奈々子は黒澤に利用されていたんだ。
件と接触させて、奈々子から件の情報を聞き出すために…。
「奈々子…、黒澤から連絡はあった?」
「友香里と電話した後に1回だけ…。
もう掛けてこないでって言っておいたから、多分もう…、」
黒澤は、何で件を目の敵にするんだろう…。
確かに、件には隠し事が沢山ある…。
けど、人間生きていれば隠し事なんていくらでも増えるし、
忘れたい過去だって、皆一様に持ってる筈だ。
「まだ…、仲直りできてないの?」
喧嘩した訳じゃない…、ただむきになって怒鳴ってしまっただけ。
「私は…、何とも思ってないのに…。」
「ごめん友香里、私のせいで…、」
“気にしないで”と言おうとしたのに…、言葉が出ない。
私は心のどこかで、奈々子を責めたくなっているんだ…。
「あの、榎本さん…、ちょっとお時間いいですか?」
「え!?だ…、誰ですか?友香里、知り合い…!?」
「武藤刑事…、久しぶりだね、元気だった…?」
「ええまぁ、それより、ちょっとお話が…。」
「件の事だったら、話すつもりはありません。」
武藤は黒澤の部下だ、きっと黒澤の差し金だろう。
「いえ…、カワ、じゃなかった、大神崎さんの事じゃなくて…。
黒澤さんの事なんですけど…。」
「黒澤…?黒澤がどうかしたの?」
何で武藤が黒澤についての話を私に聞くんだ?
「黒澤についてならあなたの方が詳しいでしょう?」
「いえ…、1週間位前から連絡が取れなくて…、どこにいるか知りませんか?」
了
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