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~責任~
11月11日、午前0時、関東救急病院、集中治療室前。
手術中の明かりが消え、白衣に赤い斑紋を残したまま医師が退室してきた。
「先生!!黒澤さんは!?大丈夫なんですか!?」
連絡を受け、到着した武藤が医師に詰め寄った。
「あと少し到着が遅ければ、手遅れになっていたところです。
そこのお嬢さんの迅速な対応のお陰でしょう。
しばらくは絶対安静ですが、明日には意識も戻ると思います。」
安堵して力が抜けたのか、武藤はその場に座り込んだ。
「刑事さん…、今日はもう遅い、お嬢さんを送って差し上げては?」
武藤はスッと立ち上がり、私の方を見る。
「そうですね…、榎本さん、行きましょう。」
武藤に連れられ、私は外に止めてあった車に乗り込む。
「武藤刑事…、件は、どうしてる?」
「今、他の刑事が取調べしているところでしょう。」
もっとも、あの状況で取り調べも何も無いだろう…。
血溜りの中に横たわる黒澤、それをただ見つめるだけの件。
周りには私以外の人間は誰1人いなかったんだ、言い逃れなんか出来るわけない。
「明日、あなたにもお話も聞かせていただきます…。
なぜ、あんな時間に、あんな所にいたのかを。」
「…家に着くまでには話し終わる。」
武藤は車を運転しながら、何も言わずに私の話す事の顛末に耳を傾ける。
それを聞き終えると、武藤が私を責めるかのように、強く私に言った。
「黒澤さんの言う事を聞いておけば、こんな事にはならなかったかもしれない。
あの人はいつも…、あなたの身を案じていました。
あなたはその気遣いを無視し、裏切り、一人で先走り、こんな事態を招いた。
黒澤さんは、あなたを責めたりはしないでしょう。
逆に、あなたを巻き込んでしまった事を、ずっと後悔し続けると思います。
あなたに、その責任を取ることが出来るのですか?」
私は何も言えなかった…、武藤の言っている事が正しいと分かっているから。
黒澤はずっと、私に言っていたじゃないか…。
件は信用出来ない、嘘を吐いている、もう関わるなって…。
私が素直に言う事を聞いておけば、黒澤は傷付かずに済んだかも知れない。
「黒澤さんの意識が戻ったら…、一緒に行きますか?」
「私、行かなきゃ…、黒澤に、謝らなきゃ…。」
了
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