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~濡れる瞳に~
同日、18時、黒澤の病室。
「来たな、友香里…。」
黒澤が意識を取り戻したと聞いて、私は一足先に会いに来た。
「武藤は大神崎の取り調べですぐには来れないそうだ。」
ベッドに横になった姿勢のままで、天井を見上げながらそう言った。
黒澤を囲む周囲の医療機器の無機質な音が、私を責めるかのような錯覚を覚える。
「私のせいで…、黒澤にこんな…、」
「待て待て…、お前のせいじゃないだろう?」
「だって…、私が黒澤の言う事を聞いていれば!!
こんな事にはならなかったかもしれない!!
私のせいなんだ…、ごめん黒澤…、本当にごめんなさい!!」
黒澤の姿を見てると、後悔の涙が一斉に溢れてくる。
「言いたい事は分かったから…もう泣くな。」
「ごめんなさい…!!本当に…!!私のせいで…!!」
私には…、今の私には…、ただ誤る事しか出来ない…。
「…泣きながらでもいいから、俺の話を聞け。」
黒澤が、私の頭を撫でながら、そう促した…。
「確かに、お前は俺の言う事を聞けない生意気な悪ガキだ。
だがな…、俺はお前の人を見る目を信用している。
だからお前も、お前が信じた人間を最後まで信じてみろ。」
…黒澤が何を言ってるのか、私には理解出来ない。
私は気持ちを落ち着け、涙を拭いて必死に黒澤の話を理解しようとする。
「…いい子だ、ちゃんと俺の話を聞けるな?」
嗚咽を抑え、私は強く首を縦に振る。
「昨日、俺は大神崎から呼び出されて、あの路地裏に行ったが、
俺が着いた時には、まだ大神崎の姿は無かった。
10分程待ってたんだが現われる気配がなかったんでな。
一服しながら待とうと思い、煙草を取り出そうとした瞬間、
いきなり後ろから押さえつけられ、何かで背中を刺された。」
「件が…、刺したんでしょう?黒澤が油断した時を狙って…。」
「お前は、お前が信じた人間を簡単に疑っては駄目だ。
榎本のようになりたいのなら、まずは相手を信じることだ。」
「そんな事言われても…、あの状況じゃ…、」
「刺された瞬間、微かに“香水の匂い”がした…、恐らく、ホンボシは女だ。」
了
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