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~託される意思と使命~
件は俯き、唸りながら、体を小刻みに震わせている。
「もう1度聞く…、黒澤を刺した真犯人を知ってるの?
あなたでは無い事は、黒澤から聞いて分かってる。」
私がそう質問すると、件は少しづつ平静を取り戻し、さっきの体勢に戻った。
…また黙秘か、どうあっても話す気は無いということだろう。
だったら、これ以上ここにいても仕方が無い。
別の方法で、何らかの手がかりを得ない事には埒が明かない。
私は立ち上がり、面会室の扉のドアノブに手を掛ける。
「…件、酷い事言ってごめん。
けど…、もう隠し事なんかして欲しくなかったの。」
件はもう…、私の“大好きな人”になったから。
一緒にいる少しの時間を大切に思えるなら、付き合った時間なんて関係ないんだ。
だから…、私は2度と…、大好きな人を失いたくないから。
「…ならば、全てを知る覚悟があると?」
「…え?」
件が…、急に口を開いた。
「自らの意思で、危険な環境にその身を投じようというなら…、
その覚悟があるなら、訪れなさい、“件の館”を。」
「件の…、館を?そこに何が?」
私がそう聞いても、件は答えずに先を続ける。
「それを望むのなら、己の力で掴み取りなさい。
真実への鍵は…、“失われた我が愛する家族”。」
「失われた家族…?どういう意味?ねぇ件…。」
件は再び瞳を閉じ、貝のように口を紡ぎ、話そうとしない。
これ以上は…、何も言うことは無い…、いや、言う必要は無いということか。
ここから先は、私自身の力で選び、進まなければならない。
「分かった…、私、言ってみるね…?件の館に。」
私は面会室を出て、そのまま外へ走る。
件の言っていた“真実”とは恐らく、件の知っている“件の館”の全てだ。
そして…、そこに黒澤を刺した犯人の手掛かり、件が黙秘する理由があるはず。
以前聞かされた“危険”に、さらされる覚悟があるならと…、件が言っていた。
件に託された“真実への鍵”と“危険に身を投じる覚悟”が、
全てを知る“資格”を得るために必要な物だというなら…。
覚悟は出来た…、犯人を見つけるために、全てを知るために。
了
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