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「あっ……リア、悪い。起こしちまったか?リビングにも書き置きは残したけど、急に出掛けることになった。多分、しばらく帰れそうにない」
「ふわぁ……、また仕事関係か?」
「まあ、そんなところだ。家は自由に使っていいから、ラウの世話は頼むぞ。生活費は俺の部屋にまとめて置いてあるから、それを使え。それでももし金に困ったら、地下室にある金庫の中身も自由に使っていいからな。金庫の暗証番号は書き置きに書いた通りだ」
「ああ……分かった。しばらくって言ったけど、いつ帰ってくるとかだいたいの目安もないのか?」
リアのその質問に対し、クエルと呼ばれた男はどこか哀愁漂う表情で力なく答える。
「いや、今回は全く検討もつかないんだ……」
「ふーん、そっか。まあ、何にしても気を付けてな」
「ああ。……それじゃあ、俺が帰ってくるまで1人でもちゃんとやっていけよ?」
「ああ、分かってるよ」
「……それじゃあな」
その言葉を最後に、クエルはほんの少しだけ戸惑いのような態度を見せながらも、ブーツを履き揃えそのまま静かに自宅を後にする。
そしてこれが、リアとクエルが交わした最後の言葉だった――。
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時刻は5時40分。太陽が上り始め、外では徐々に明るみが増してきている。
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