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『お父の錫杖…か…』
シャンシャンと、自分が動く度に響くキリクの音が五月蝿い。
まるで、"守れ"、"守れ"と、言われている気になってくる。
「………重た…」
ポツンと呟いてみた言葉は、広すぎる廊下を騒がす事もなく、ただ空気に溶けて消えてしまった。
『…お父、何回志摩って言いはったんやろ、…数えれば良かった』
そんなことを考えながら突き当たりを曲がったところで、ふと見上げた先に見知った姿が視界に入った。
バカみたいに目立つ金色の髪。
なのに酷く似合っていると思う。
制服だということは、抜け出してきたんだろうか。
金造は、廉造が声をかける前に、壁に寄りかかっていた体を離すと、廉造に近寄っていく。
金造「廉造」
廉造「…おん?」
廉造は、自分に近寄ってくる金造の眼差しが、今自分が手にしている錫杖に向けられていると気付いてか、一歩だけ後退る。
それに反応したのか、金造は、廉造に歩みよる足をぴたりと止めた。
人二人分ほど先に立っている先の廉造をじいっと見つめると、廉造はばつの悪そうな表情だ。
金造はそんな廉造を見て、一息漏らしながら、ゆっくり口を開く。
金造「錫杖、お父に貰うたん?」
廉造「…おん、貰うた。ついさっき、お父に呼ばれてなー」
廉造は、きつく錫杖を握りしめながら、軽い笑みを浮かべている。
きっと、他人から見たら普通のその笑顔も、家族が見れば、その笑顔が哀しい笑みだと分かる。
金造は僅かに眉を潜めると、視線を左右に泳がせながら、弟になにか言わなければと考えつつ、あまり弟を不安にさせぬよう、上手に笑ってみせた。
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