▼  守りたいもの

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金造「ほーか。…んー…なんて、言えばええんやろ、…なぁ廉造、…それ…錫杖。貰うて嬉しいか?」 そう言いながら、金造は廉造のまだ黒い髪をくしゃりと撫でる。 廉造「…え…」 戸惑い。 いつのまにか、嘘をつく事、笑顔を作る事が、特技となっていた弟。 そうさせたのは、きっと、志摩。 そんな廉造が、明らかに戸惑いを表情に浮かべている。 金造「…なんて言ったればええんやろうなぁ、こんな時て。」 廉造「き、金に「矛兄なら」      《 矛兄 》 その名前が出た瞬間、廉造の心臓がドクンと大きく波打った。 金造「矛兄なら…」 パァンッ! 乾いた音。寒い音。 気が付くと廉造は、自分を撫でる金造の手を振り払っていた。 瞬間、ハッと我に返った廉造は、驚いている金造に向かって苦し紛れに笑ってみせる。 廉造「…あ…ははっ…堪忍なぁ金兄。手に虫が止まっとるように見えてん。あかん、疲れとるわ。…なんや眠たいし、ちょお寝てくるな、夕飯になったら起こしてや。おやすみ、金兄」 金造「……お、おん、おやすみ」 そう言って廉造は、シャンシャンと錫杖の音が響く中、泣くでもなく、怒るでもなく、背を丸めることもなく、ただ淡々と、部屋に向かっていった。 金造はそんな廉造の後ろ姿を見送りながら、ふるふると震える手を口元に当て、その場に座り込む。 俯き、八の字に歪んだ眉からは己に対する嫌悪感が見受けられ、くしゃりと髪を乱暴に掻き上げると、静かに目を閉じ、拳を床に打ち込みながら、天井を扇ぎ、 金造「………間違うた……。」 と、悔しげに、呟いた。 _
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