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金造「ほーか。…んー…なんて、言えばええんやろ、…なぁ廉造、…それ…錫杖。貰うて嬉しいか?」
そう言いながら、金造は廉造のまだ黒い髪をくしゃりと撫でる。
廉造「…え…」
戸惑い。
いつのまにか、嘘をつく事、笑顔を作る事が、特技となっていた弟。
そうさせたのは、きっと、志摩。
そんな廉造が、明らかに戸惑いを表情に浮かべている。
金造「…なんて言ったればええんやろうなぁ、こんな時て。」
廉造「き、金に「矛兄なら」
《 矛兄 》
その名前が出た瞬間、廉造の心臓がドクンと大きく波打った。
金造「矛兄なら…」
パァンッ!
乾いた音。寒い音。
気が付くと廉造は、自分を撫でる金造の手を振り払っていた。
瞬間、ハッと我に返った廉造は、驚いている金造に向かって苦し紛れに笑ってみせる。
廉造「…あ…ははっ…堪忍なぁ金兄。手に虫が止まっとるように見えてん。あかん、疲れとるわ。…なんや眠たいし、ちょお寝てくるな、夕飯になったら起こしてや。おやすみ、金兄」
金造「……お、おん、おやすみ」
そう言って廉造は、シャンシャンと錫杖の音が響く中、泣くでもなく、怒るでもなく、背を丸めることもなく、ただ淡々と、部屋に向かっていった。
金造はそんな廉造の後ろ姿を見送りながら、ふるふると震える手を口元に当て、その場に座り込む。
俯き、八の字に歪んだ眉からは己に対する嫌悪感が見受けられ、くしゃりと髪を乱暴に掻き上げると、静かに目を閉じ、拳を床に打ち込みながら、天井を扇ぎ、
金造「………間違うた……。」
と、悔しげに、呟いた。
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