▼  守りたいもの

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『廉造、一番上の死んだ矛兄は、お前と坊を守って死んだんや』 ……なぁ、矛兄。 俺のこと守って死んだんやろ、 なんで助けたん、俺のこと。 『お前の命は、助けられた命なんやから、助けた矛兄に恥じんよう生きなあかんで』 ……なぁ、後悔しとる? 命と引き換えに助けた弟が、こないに軟弱な弱虫で。 『俺は困った時、矛兄ならこんな時どうすんねやろて考える』 ……俺は、矛兄に代わって誰かを守るようなこと出来ひん。 助けることやって無理や。 『矛兄は志摩家の誇りや!』 ……金兄も珍しく気ぃ使ってくれはったのに、俺はそれを拒んだ。酷い傷つけ方したかもしれん。 でも、あかん、しんどいわ。 小さい時から、きっと誰も、俺を俺としては見てくれへん。 俺は、誰だ。 矛兄なんて、知らない。 どんな人だったのかも知らない。 何も思い出がない矛兄。 お父も、柔兄も、金兄も、皆――… アンタらは、誰を見とん。 その目に映っているのは『志摩廉造』ではなくて、『志摩矛造』なんやないの。 誰や、誰を見てんねん。 俺を通して、俺やない誰かを、 俺の前で見んとってよ。 皆が俺を通して見とるのは、坊か、志摩か、はたまた矛兄か…。 それだけやんなぁ、ほんま。 笑えてくるわ。 『廉造ッ!!お前がついてながら坊が怪我しとるんはどういう事なんや!!志摩の人間なら守らんか!!』 脳裏に甦るのは、坊たちを守りきれなかった時に、父が自分に向かって吐き出した怒声。 「…せやけど、お父…俺かて、坊と同い年の子供やったんやで。…なんかもっと、なかったんかな…」 あぁもう…、辛い、辛い…。 俺かて、人やもん。 坊ばっかやのうて、俺のことも大事にして欲しかった。 せやけどそんなんは、絶対に、叶うはずのない願いやって、わかってはおるんやけど…なぁ…。 坊のことも、子猫さんのことも、大好きやのに、…大嫌いなんや。 嘘つくのもめんどいなぁ…。 笑うのも、もうしんどいわぁ…。 なぜ、"志摩"に生まれてしまったのだと、何度思っただろう。 _
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