0人が本棚に入れています
本棚に追加
~光明~
「そういえば、話の途中で何か引っかかる事があったんだよね…。」
黒澤の話に聞き入ってしまって、肝心の手掛かりを見失ってしまった…。
「…事件の犯人なら、死刑判決を受けて、期日を待ってるが?」
「いや…、犯人の事じゃなくて…、何だっけ?」
「…被害者の話か?」
「そうそう!!エレベーターの中に子供がもう1人いたって話!!」
「クリスマスシーズンだ、子供が百貨店にいても不思議じゃないだろう。」
そうじゃない、子供がいた事じゃなくて…。
「そのエレベーターの中には、他に誰が乗ってた?」
「川元の妻と子供、それからもう1人の子供とその父親の4人だった。」
そうだ…、それなら!!件が庇っても納得出来る!!
「親しくなくても…、同じ境遇の人なら、庇うかな!?」
「同じ境遇…?まさか、川元は…!?」
エレベーターに乗っていた子供と、その父親…!!
あの事件で2人の家族を失った人間が、同じ境遇の人間と出会って…!?
いや…、例えそうでも件なら止める、同じ傷を誰かに背負わせたいとは思わない。
出会ったのが、まさに犯行の瞬間だったとしたら…!?
件なら、あの“件の館”の情報網を使って、
同じ事件の被害者遺族の顔を知っていても不思議じゃない。
私が件だったらな、家族を失った事件を徹底的に調べるだろう。
その過程で遺族の顔を知ったなら、件は“決して忘れない”。
「同じ境遇を持つ人間の犯行なら、件が庇ってもおかしくはない…!!」
「確かに…、俺を殺したいほど憎む奴といえば、
あの爆破事件の関係者がまず浮かぶだろう。」
「あの事件の被害者の名前…、分からない!?」
「すまん…、俺には伏せられていて知る術が無かった。
あの事件の後、すぐ入院して、監視まで付けられていたんでな…。」
黒澤が責任を感じて、自殺しかねない状況だったのかも知れない。
それを防ぐ為の監視の意味もあっただろう。
「武藤に言えば、すぐ調べてもらえるだろう。
お前は、今すぐ警視庁に行け、武藤には俺から伝えておく。」
「分かった!!それじゃあ、また何か分かったらすぐ連絡する…!!」
私は病室を飛び出し、タクシーを拾って警視庁に向かう。
あの事件の被害者遺族…、疑いたくは無いけど、今はそれに縋るしかない。
了
最初のコメントを投稿しよう!