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「文句言わないの。はい、じゃあ、ゆっくり食べるのよー?」
「言われなくても、そうしますから……頂きます。」
僕が食べ始めるのを見届けた吉森さんは、満足げな様子で病室から出ていく。
ふぅ……何て言えばいいのか、あの間延びした声を聞くと、時間の流れすらゆっくりになっているようで、憂鬱になる。
タイクツとはタイセツか?
それは度が過ぎなければの話であって、度が過ぎてしまったのなら、それはただの邪魔者だ。
僕の幸福に対しての、障害物でしかないもの。それが退屈。
僕たち人間が退屈を感じなくて済む時、それは己の欲を満たしている時だ。
だから食事の時間は、大部分の人間にとっては、至福の一時だろう?
こういうわけで――というわけじゃないけど、僕は目の前の食事のみに集中することにした。
……三十分という、歯が健在である僕が、あの三食とあの量では到底かからないような長い時間をかけて。
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