~眠る場所~

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~眠る場所~

同日、午前11時、近江屋百貨店前。 私と黒澤は、店内の花屋でお供え用の花を買い、外へ出た。 「どこに供えようか…、店の前は…、邪魔になるかな?」 「いや、店側も分かっているはずだ、ここで構わんだろう。」 花を供えようとしたその時、いきなり私の携帯が鳴り始めた。 「…電話?あ…、件からだ…、もしもし?」 「そこには誰もいませんよ?」 …件が言っている事の意味が分からない。 「あの…、何の話か分かんないんだけど?」 「…黒澤刑事と一緒に旧丸山百貨店前にいるのでしょう。 十中八九、彼と花でも供えに行ってるのでは?」 「な…!?何で分かったの!?もしかしてどこかで見てる!?」 「川元、いや…、大神崎か…?俺に代われ。」 そう言うと、黒澤は無理矢理に私から携帯を奪った。 「大神崎か…、今どこにいる?」 「黒澤刑事…、その場所にはもう既に誰もいませんよ? 三瀬さんのご家族は目黒駅近くにある染井霊園に眠っておられます。 もっとも、私の妻と娘が眠る場所はそこでも、染井霊園でもありませんがね?」 黒澤が携帯の通話口を押さえ、わたしに問い掛ける。 「友香里…、大神崎にここに来る事を教えたのか?」 「何言ってるの…?私にいつ、件に連絡出来る暇があった? ここに来るって事は、黒澤が言い出したじゃない…!!」 「…何故、俺がここに友香里と一緒に来ていると分かった?」 「貴方の今までの行動から考察しただけです。 いつまでも過去に囚われ、前に進む事を辞めた不様な生き方から…。」 「…貴様は、今どこにいる?」 「愚問…、私は件の館の管理者、大神崎件。 私の家族に会いたければ…、私の元へ来なさい、黒澤刑事。」 「いいだろう…、すぐに、そっちへ行く。」 そう言うと黒澤は電話を切って、私に手渡した。 「件…、今どこにいるって言ってたの?」 黒澤は再び、近くに止まっていたタクシーを呼び、私の腕を引っ張って乗り込む。 「痛い痛い…!!ねえ、どこに行くの…!?」 「決まっている…、“件の館”だ。」 了
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