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~心境の変化~
同日、正午12時、件の館前。
私達が到着すると、いつもは閉まっている鉄柵の門扉が全開になっていた。
「…入って来い、という事だろうな。」
「件が…、自分から黒澤を呼んだの?」
あれだけ嫌っていた黒澤を、ここに呼ぶなんて…。
私は辛そうに歩く黒澤に肩を貸し、館の前まで歩いた。
「ここも、扉が開いてる…、黒澤が怪我してるから、開けといたのかな?」
私の問いを無視して、黒澤は1人で中に入っていく…。
「大神崎…!!来たぞ!!俺だ、黒澤だ!!」
「ちょっと…、叫んだら体に響くんじゃないの!?」
その時、1人分の足音が、2階の吹き抜けから聞こえてきた。
「ようこそ、件の館へ…、友香里さん、黒澤刑事。」
そう言いながら、件がゆっくりと階段を下りて来る。
「大神崎…、お前の家族は…、どこにいる?」
「家族の遺体は火葬後、妻の故郷であるアメリカへ送り届けました。
もっとも、妻の両親から2人の遺骨の一部を持ち帰らされましたので、
一応、“ここにも居る”と言えますがね…?」
だからあの時…、むきになって黒澤を追い出したのか…。
「…2人に手を合わせたい、会わせては貰えんか?」
「手を合わせ、あなたは何を思うか…、何を伝えるか…。」
「2人の命を救えなかった事への…、謝罪を。」
「ならばお引取りを…!!貴方に2人を悼む資格は無い!!」
件は声を荒げて、黒澤にそう言った。
「黒澤…、あなたが言ってた心境の変化って何だったの?
自分が犯した罪に対しての…、意識の変化じゃなかったの?」
「友香里さん…、それ以上の言葉は不要。
この男が、自らそれに気付かねば…、2人を悼む資格は得られない。」
「俺は…、本気であの2人を…、いや…、4人だ。
4人とも、救いたいと思っていた…、そう思い行動したが、
俺の力が及ばず…、救う事が出来なかった…、死なせてしまった…。
だが…、俺が謝りたいのはその事じゃない…。
自分の力の無さを悔やんだにも関わらず、逃げてしまった事をだ…。
俺があの仕事を続けていれば…、救えたかも知れない人間を見捨てて…、
人を救う事を辞めてしまった事を…、どうしても謝りたい…。」
了
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