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~本当のこれから~
「それで…、話って何なの?」
「あの…、片桐さんは…。」
件はこめかみを押さえながら奈々子の方を見ている。
「私の事は、壁か床だと思って下さい!!」
「何それ…?えらくド派手で騒がしい壁ですねぇ?」
「それじゃあ、小型のデコトラとでも思って下さい!!」
「まぁ…、聞かれて困る話ではありませんし。」
本当にそう思ったのかは分からないが、件はとりあえず、私の方を向き直した。
「あれだけ私には隠してたくせに…、で?」
件が急に真剣な表情になったので、奈々子も騒ぐのを止めた。
「友香里さん、もし貴女さえ、よろしければ…、」
…何となくだけど、予想は出来ていた。
黒澤のあの慌てようと、準備と、私に関係ある話…。
…そして、件の口から出た言葉は、私の予想を裏切らなかった。
「私の…、娘として、一緒に暮らしませんか?」
「え…!?娘って何!?養子って事…!?ねぇ、友香里!!」
奈々子は声を上げて驚く…、デコトラが反応するなよ…。
「まぁ…、そんな事だろうとは思ってたけどね?」
「この家の事は、友香里さんの希望通りで構いません。
引き払うか、ここで一緒に暮らすか…、貴女の希望をお聞きします。
件の館に共に住むのであれば、すぐに用意致します。
お望みであれば、館の敷地内に新たに住居を建てても構いません。
金銭的な問題も、全くありませんし…、いかがですか?」
「友香里…、どうするの?」
「お断りします。」
「…!!そんなにきっぱりと断られるとは思っていませんでした。
もしよろしければ…、理由をお聞かせ願いますか?」
「どうして断っちゃうの?いい話だと思うよ?
成人するまで、ずっとここに1人で住むの?」
奈々子が、本気で私の事を心配してくれてるのは分かる。
件も、これからの事を考えて言ってくれてるのも、分かってる。
私1人で、これから生活できる自信が無い事も、自分でちゃんと分かってる。
けど…、本当の意味で“これから”を考えたら…、
私には、件の申し出を受ける事が…、出来ない…。
了
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