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 その時である。  男の方から、何やら生臭いものがふわり、と漂ってきた。  狐は山の他の獣よりは余程人の世に擦れてはいるが、それでも鼻は人間のそれよりはかなり利くはずである。この日は勘が鈍っていたのか、それともこの男の醸し出す雰囲気に飲まれたか、兎に角本当は男の後ろ姿を見た時に気付くべきであった。  時既に遅し、そしてこの妙な生臭さを感じた後も、男の異様な空気に圧され気味の狐の頭は、なぁんだ饅頭でなく魚でも包んでいるのかい、くらいにしか回らない。  だからこう聞いてみたのである。 「お兄さん、随分大事そうにしているけれど、その包みの中身は何なんだい?」 「ああ、これはねぇ……」  男が風呂敷包みを此方に向けようとした時に、首をにょろりと伸ばして驚かすつもりであった。ひゃあ、と飛び退いた隙に包みを頂き、狐の姿に戻ってもうひと驚かし、後は包みをくわえて逃げるだけである。
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