プロローグ

2/2
前へ
/58ページ
次へ
神は死んだ。 かくも有名な哲学者ニーチェが――彼が実際に神が死んだと考えたか、他の何かの比喩だったかは別として――言ったように確かに神は死んだのだ。 いや、それではまだ適切ではない。 こう言った方が正しいだろう。 『神はその意思を失い、ただ力のみが残留している』と 神はもはや自らは何も成すこと無く、彼らが産み出した生物に使われる存在と成り下がっていた。 早朝。まだ寒さの残る四月の街に歩く人影がある。 朝もやのかかる街にそれ以外の人影は見えない。足取りはしっかりとしたもので、あてもなくふらついているというわけではないようだ。 「ふうん。ここが新しい居留地ね」 声の感じから女性であることがうかがい知れる。人影の口から漏れた呟きは日本語ではなく英語だった。 彼女はそのまま溶けるように朝もやにまぎれやがて見えなくなった。
/58ページ

最初のコメントを投稿しよう!

46人が本棚に入れています
本棚に追加