かくてD.E.M.の歯車は回る<tutorial>

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 だから僕は、彼女にこの身を預け、言われた通り全てを任せた。  そして―― 「ん、イイ子だね。 ・・・  それじゃ―――――跳ぶよ」  だんっ、と。  彼女は僕を抱えたまま、地を蹴り上へと――跳ねた。  比喩でも何でもなく、コンクリの壁を蹴り、排気口のパイプを伝い、屋根から屋根へ、ひいては空へと跳躍した。  直後、さっきまで僕らのいた路地裏に破砕音が響き渡る。  普通なら聞くはずのない轟音と噴煙。けれど、この時それを差し置いても最も印象的だったのは――ふわりと、重力を受け付けず慣性に任せて舞う蜜色の髪。香る匂いはやはり何かの花を想起させる。 「Gastraphetesa!」  されどそんな僕にも、音源にも彼女は見向きもせず、重力降下にありながら夜空に向かって何かを叫んだ。  ごう、という風切り音。  それは僕らが寂れた繁華街――不思議と人のいない表通り――を舞台とするより速く、闇夜に紛れて新たな足場となった。  一羽の大烏。  それも僕と彼女を背に乗せて、なお余りある程の大きさの。 「数が多いし囲まれてる、高度上げるから振り落とされないでね!」  頬を切る風、  星空の天蓋、  三日月の背景。  最早理解の追い付かないこの現状は僕に思考停止を強要し、僕は僕を演じることなど意の外で、ただ振り落とされまいと大烏にしがみついていた。 「いひひ、さっきはごめんね、いきなり押し倒して。トランス中は抑えがきかなくて動けなくなるからさ、キミを守るにも結界張らなきゃいけないし、けどこっちも余裕無かったからああするしか、ね」  
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