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背後で、屋上の扉が開く金属音がした。
私は勢いよく振り返る。
そこには―――
「神谷…比呂」
私はぽつりと呟く。
神谷は私を一瞥したまま、動かない。
まるで、私がここにいることが分かっていたかのように、私を見つめる。
私は泣いて赤くなった瞳を手で庇うようにして、屋上の扉に向かって歩み進む。
神谷とすれ違う。
だが―――
「待てよ、美嘉」
腕を掴まれた訳でも、追い詰められた訳でもない。
しかも、馴れ馴れしい呼び捨てだ。
けれど、普段なら無視するような言葉に、思わず足を止めてしまった。
“誰かさん”の呼び方に、似ていたから。
「何?用件があるなら早くして」
私は顔だけ振り返り、神谷を睨み付ける。
神谷は動じず、私をじっと見据えた。
「単刀直入に言う」
神谷の顔が、ふっと微笑んだ。
「岡田さん殺したんだってね」
私の肩がびくついた。
どうして神谷が…
真実を知っているの?
その言葉に反応してしまったのは、私のミスだった。
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