秘密

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私はドアノブを回す手を止めた。 「あー、分かるわ。 俺、あんな綺麗な子、見たことねぇし」 「引退したくねぇーっ! 美嘉ちゃんと離れたくねぇーっ!」 3年生の先輩達の言葉を聞きながら、 私の口端は上がっていた。 ―…ほら。 やっぱり私が一番美しいんだから…。 そう思ったのも束の間、 次の一言が、私のプライドをぐちゃぐちゃに壊した。 「違うだろ、フツー」 悠太先輩の声だ。 「美嘉なんかより、千紗の方が可愛くて、いい子じゃん」 『美嘉なんかより……』 私……なんか? この私を、 『なんか』? 私の中で、何かが弾けた。 私はただ、ドアの前で俯き、 歯ぎしりをしていた。 すると、 「…美嘉?」 振り向くと、蓮が汗で濡れたユニフォームを着て、 汗だくになって立っていた。 蓮は片手で額の汗を拭った。 「…何してんの。入らないのか?」 「……」 「あーそっか。先輩達、着替え中だもんな。 鞄なら、先輩達に取ってもらえばいいじゃねぇか」 「……」 「…どうした?」 蓮も、おかしい私の様子に気づいたらしく、心配そうに私の顔を覗き込む。 不意に、先輩と同じ、汗の匂いがした。 「…だって」 私は声を絞り出す。 「先輩が、私より千紗の方が…可愛いって…いい子だって…」 「そりゃそうだろ」 蓮の言葉に私は目を見開いた。 「千紗は、美嘉とは違うから」
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