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警視という仕事と家庭を両方任せられることになってしまった父は、
時が立つにつれ、たとえ家でも会うことは少なくなっていった。
別に私は不思議と寂しい、とは感じなかったし、
物心ついた時からそうだったから、
そういう家庭が普通なのだと思っていた。
時々見かける“温かい家庭”というものを目の当たりにする度、
胸の奥がチクリと少し、痛むだけ…。
私が囲まれてきた“家庭”とは、そんなものだった。
でも。
いつからだっただろう?
少しずつ、人と接するのを、
避けるようになったのは。
…私は、人と話すのが苦手…というより、嫌いだった。
自分の感情を、相手に渡すのも嫌いだった。
それは私がまだ、幼くて、純粋で、人を遠ざけなかった頃…。
‡‡‡‡‡‡‡‡
「ねぇ、おとーさぁん。みてみて。おえかき、したの」
私はキッチンの洗面所に立ち、
皿を洗うお父さんに声を掛けた。
そして、その絵を顔の前につきだした。
「うまく、かけたでしょ?」
私はただ、誰かに誉めてほしかった。
頑張ったねって、頭を撫でてほしかった。
―…なのに。
「分からないのか!?お父さんは、今忙しいんだ!!
つまらないことで話しかけるな!!」
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