秘密

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『拒絶』。 お父さんは、今までにないくらい恐い顔で私に怒鳴った。 お父さんはちょうど、難事件がなかなか解決しなくて、 イライラしていた頃だったのだ。 「ごめん、なさい…」 私は俯く。 でも、すぐに顔を上げて笑ってみせた。 「じゃあ、じかんがあるときに、またみてね!!」 そう言うと、頬に鋭い痛みが走った。 父に、はたかれたのだ。 「笑うな。 …梨華みたいで、虫酸が走る」 父は私を、冷たく睨んだ。 私はただ、俯くことしか出来なかった。 梨華…―それはお母さんの名前だった。 お母さんが浮気して出ていってから、お父さんはずっと不機嫌で、 お母さんの名前を口に出すだけで、とても怒られた。 ―…笑うだけでも…。 私はお母さんによく似ている。 だから、お父さんは私が嫌いだった。 前まで。 前までは、優しいお父さんだったのに…―。 幼い少女には、苦痛ともいえる出来事。 それを、分かってくれる人もいなかった。 きっとこの、私のひねくれた心は、家庭で育ったものなのだろう…。 ‡‡‡‡‡‡‡‡ 私はバスを降り、家へと向かった。 そこから十分も歩くと、 新しそうな、白くて高いマンションに着いた。 エレベーターに乗り、“6”を押す。 一瞬、浮遊感がしたと思うと、エレベーターは急上昇した。
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