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家の扉の前に来ても、中には誰もいない。
誰も開けてくれない。
私は、鞄から鍵を取り出し、鍵穴にさしこんで回した。
ガチャリ、と音がして扉が開く。
家に入っても、ただいま、とは言わなかった。
言っても返事は返ってこない。
もしいても、おかえり、とは言ってくれないだろう。
―…今日はお父さん、遅いんだっけ…。
私は、右腕のシャツの袖を捲る。
そこには、大きな楕円形の青い痣があった。
「ちょっと、直ったかな…」
私は目を伏せる。
「お父さん、遅いんだ…。
良かった…」
私は、心から笑った。
―…そうだ。夕食作らなくちゃ…。
私は、野菜庫から、買い置きをしておいたトマトを取り出した。
私は料理の途中で、リビングの電気がついていないことに気付いた。
―…暗い…。
私は料理を放置してまで、リビングの電気をつけにいった。
そして、テレビの電源を入れ、
暗いニュースから、見たくもないバラエティーの番組に切り替える。
これならまだ、騒がしくて、
明るくていい…。
私はしばらく、家の中で唯一明るいリビングから、離れられなかった。
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