秘密

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―…事件は放課後。 生徒のほとんどいない校舎を、 千紗と二人で歩いていた。 「…先生、ひどいよね。 こんな重い教材、校舎裏の倉庫まで運べってさぁ」 千紗は小さな腕の中に段ボールを2つ積み上げて、 苦しそうに呻いた。 私は黙ってその一つを、私の持っていた一つの段ボールの上に積み上げた。 「あ、美嘉。 いいよいいよ。悪いもん」 千紗は遠慮がちに言った。 私は、ため息をはく。 「千紗、歩くの遅い」 私は、その段ボールを細い腕の中に積み上げて、 足早に歩き出した。 すると、追い付いた千紗が、 隣で嬉しそうに微笑むのが見えた。 私は思わず、満面の笑みから、 千紗の奥にある窓へと視線を外す。 そこには、どこまでもオレンジ色に染まる夕焼けがあった。 建物の背に、沈みかけの夕日の光が零れて、 3階の廊下から見た景色はとても綺麗だった。 そして、千紗の背後に、千紗の体の輪郭が見えなくなるほど、夕日の光が重なり…―――、 千紗の笑顔を引き立たせた。 私は生まれて初めて、千紗を綺麗だと思った。 私はふと、振り返ってみる。 私の背には、誰もいない、暗くて冷たい教室が並んでいた。 私は生まれて初めて、寂しいと感じた。 そんな中で、千紗は、こんなことを言った。 「…ごめんね、美嘉。 …悠太先輩のこと」
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